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黒猫

2009.02.05 *Thu
(アパートの一室にて)

 
 しん、とした空間が嫌い。
 独り暮らしの受験勉強なんて、どう取り繕っても孤独なのだけれど。
 せめてもの抵抗として耳に心地良いジャズのCDをかけていた。
 ゆるやかに部屋を満たす音は、孤独感にヴェールをかける。
 そして、窓から差し込む陽光はいつしかオレンジから紫へと変わり始めていた。
「エル姉?」
 そんな空気を壊さぬよう遠慮がちに扉を叩き、そっとかけられたのは耳慣れた声。
「どうぞ、開いてるよ」
 解きかけの設問から顔を上げずに応えれば、慣れた彼女は扉を開く。
「ごめん、これだけ解いてから紅茶でもいれるから待ってて」
「あっ、気にしないで大丈夫っ。ええと…キッチン借りるねっ」
 エル姉が紅茶──ミルクティーで湯葉を作ってた人とは思えません!!
 妙な感慨に耽りつつ、勝手知ったる何とやらでキッチンを占拠する来訪者。
 緩やかに広がる香りに目を細めたのは、茶葉のジャンピングが落ち着いた頃──ティーカップではなくマグカップと蜂蜜、ミルクを用意した来訪者が手土産を添えている所だった。
「エル姉、ひと段落ついた?えへへ、お茶も用意できたし一息入れてー♪」
「わ、ありがと!ティアの紅茶って美味しくて大好きだよー!」
 ん、美味しい。ホッと一息ついた笑顔に、嬉しそうに頬を綻ばせたティアリス・ベルンシュタイン。部屋主エルの…もう随分と長い、義妹のような大切な親友である。
「遅くなっちゃってごめんね。今日はどうしたの?」
「んと、エル姉ってば受験でお忙しそうだったし…ご飯作ろうと思って来たの」
 照れ臭そうに言ったティアリスを、鳩が豆鉄砲を食らったような表情で見返すエル。
 彼女の性格を考えれば、差し入れ自体はありえることだった。現に、夏場に体調を変調を来たしたときも──恐怖心を抑えて南十字病院にまで探しに赴いてくれたのは彼女だった。
 だから、驚いたのはその言葉ではなく──それが『今日』であったことに対して、だった。
「…受験の予定よか教えてないよねぇ?」
「えっ!?もう全部終わっちゃってた…とか…?」
 恐る恐る尋ねるティアリスに首を振り、その手をそっと握り締める。
「本命校、土曜日だったの。今日と明日で一通り復習したかったから、助かる!!」
「うわ、すごいタイミング!それじゃ、えへへ、頑張って作るねっ」
 自分の食事の支度どころではなかったというエルへ零れるような笑みを返し、キッチンへ向かうティアリスの全身からは、使命感があふれ出しているようだった。

 * * *

 ゆらりゆらり。
 緩く波打つ艶やかな黒髪が、そっと揺れる。
「……ティア、ティア」
 黒髪の少女にそっと触れると、黄金と夕闇の瞳が交錯した。
「…ん、ふぁ…あれ、エル姉…?」
 眠たげに目を擦る少女へ、土蜘蛛様人形の鎮座するベッドを指し示す。
「使っていいよ?先に休んで?」
「ううん、平気…エル姉が居眠りしないように、見張ってなくちゃ…」
 そう告げながらも船をこぐ愛らしい少女へ苦笑し、古き銀の髪の部屋主は言葉を選ぶ。
「じゃあ、ベッド暖めながら見張っててくれる?暖かいベッドの方が直ぐに眠れて嬉しいから」
「…ん…その方が喜んでもらえるなら…」
 正常な思考を手放している少女は──否、一斤染めを纏いし相棒ならば、普段からこの程度で誤魔化される少女であると主張するのであろうが──こくんと頷き、ベッドへと身を横たえた。
 程なく規則的な寝息が聞こえはじめ、部屋主はノートに視線を落とし、自分の世界へと没頭する。

 再び目を向けたとき。
 ベッドには、闇を秘めたような、黒く愛らしい仔猫が丸まっていた。

                                    ~了~

********************
(以下背後)
 ティアちゃんが差し入れをくれたのは、正しくはセンター試験の前なのですが…。
 許可はいただきつつ、のんびりしてたら遅くなってしまったのでした。
 ごめんね!背後さまごめんね!会った時に書いてるっていえなくてもう本当にごめん!
 そして桃先輩は例の如く名前をお借りしたと、事後ですがこそりと主張しておきます(笑)
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