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【帰郷】

2008.08.14 *Thu
※アンオフィ満載注意

 ──ドッドッドッドッドッ

 重厚感のあるエンジン音が身体に響く。
 もう暫くは取れない大型免許。それまでは中古の愛機に頑張ってもらうしかない。
 お盆の後半は、実家で過ごそうと決めたのが一昨日‥‥決めたら我慢できずに即行動、それはあたしの短所であり長所だ。だから昨日も早々に鎌倉を出発して──お土産買うのを忘れて、定番の鳩サブレを買いに一度戻ったり、中華街に寄ったりしたけど──今は無事に郷里の土を踏んでいる。

 ──ドッドッドッ‥‥‥

 キーを抜くと身体に響く音が止んで、陽光と涼やかな風の中に、今まで掻き消されていた蝉時雨が降り注ぐ。
 ヘルメットを小脇に抱えて、庭を突っ切って、縁側に出る。じゃり、じゃりと小石を踏み分けて歩くと、縁側で舟を漕いでいた白髪の老婆が両手を広げて顔を上げた。
「おや、エルかね?おかえりぃ」
 レザーのライダースーツとエンジンの熱、そして夏の太陽のせいで汗が滝のように流れる頬に老婆の手を導いて、小柄な身体を優しく抱きしめた。
「うん、そう、エルだよ。ただいま、ばーちゃん」
「あんれまあ、汗だくだねぇ。倒れる前に水分取るんだよ?」
「うん、じーちゃんにただいまって言ってからね」
 白髪に見えていたのは細い銀髪。孫娘の笑顔を映さぬ濁った瞳は紫色をしていた。
 祖母への挨拶を終え、乱暴にブーツを脱ぎ捨てると、縁側から和室に上がりこむ。普段は仏壇にいるはずの祖父の位牌が、盆の間だけは誂えられた精霊棚にお引越し中だから。七福神の掛け軸の前には木彫りの仏像が置かれていて、孫娘の帰りを待ち侘びていたかのように蝋燭の火が揺れた。
「ただいま、じーちゃん。遅くなってごめんなさい」
 座布団の手前に座し、一礼してから場所を移す。ただいまと、おかえりなさいを告げると、着替えてからまたくるね、と微笑んだ。

 土蜘蛛の巫女たる祖父が仏教徒なのに違和感がないのは、その環境で育ってきたからだろうか。
 祖父の能力は微々たる物で、土蜘蛛様は見つけられぬまま祖母と一緒になり、やがて潰えた。
 父には能力は開花していない。どうして葛城や東北の里ではなく、一家のみで暮らしているのか‥‥祖父亡き今となっては、知る術はないのだろう。どちらにしても、エルにとってさして興味のある話題ではなかった。
「エル。麦茶飲むー?」
「ありがとー!すぐ行くね!」
 台所からの母の声に大きく返して。精霊棚の祖父にもう一度挨拶をして、席を辞した。


 ──続く。かもしれない。

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