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2008.07.27 *Sun
 女の勘とはよくいったもので、女の子の勘は意外に侮れない。

「……凄い顔してるよ、エル」
 夜遅く、あたしは鏡の中のあたしに声を掛けた。腫れぼったい目が酷く滑稽だ。
 胸の痛みは消えないし、不意に襲い来る胃の痛みも続いているけれど、昨晩食べた卵粥は吐かなかった。お昼に暖め直して頂いた分も、しっかり身体を駆け巡っている。……なんとも現金なあたしの身体だ。
 けれど、本当に現金なあたしの身体は、それ以外の食べ物はやはり受け付けてくれない。今も、好き好んで鏡のあたしを眺めているわけではなくて、用があるのはその下の洗面台、だったりする。
「……うわ、キた…」
 辛うじて採ったホットミルクが産む不快感が、再び波となって襲い掛かる。思わずうめいたあたしの耳に、その時、聞きなれた音が飛び込んだ。

 ──ピンポーン♪

 それは来訪を告げる呼び鈴。
 来るはずがないと告げるあたしと、もしかしてと願うあたしが鬩ぎ合う。
 腫れぼったい瞳のあたしがあわあわする様は、鏡越しでも滑稽だ。
 けれど、今晩の来訪者は昨晩の来訪者とは別人だった。
「エル姉、こんばんは。エル姉?」
 夜だからだろう、両隣に配慮した遠慮がちな声があたしを呼ぶ。耳に心地良い涼やかで少し高い声は、確認するまでもない、ティアリスのものだった。そして、再びの呼び鈴。
「エル姉、開けてー?」
 開けてと言われても、人に会う気分にはなれなかった。
 それに、こんな顔を見られたら心配されてしまうような気がして、そう思うとますます扉を開く気にはなれない。
 そんな後ろ向きな思いが、義妹のティアへ、心根も優しく愛らしい彼女への声を飲み込ませて。気付けば、居留守を使っていた。けれど、けれど、ティアは……明かりがついているのだからエルは部屋にいると、そう信じて呼び鈴を鳴らし続ける。
「いないってばっ」
「あ、エル姉!!ね、開ーけーてー??」
 しまった、と後悔しても後の祭り。思わず口を突いて出てしまった声に、徐々に低くなっていたティアの声が明るく弾んだ。呼び鈴ではなく今度は扉をノックし始める。
 苦肉の策で、無理矢理裏声を出し、第三者を演じた。いくら天然で純真なティアでも、さすがにこれは──
「彼女は、外出中なんです」
「あれ?」
 ──通じた。
 それでも多少は違和感を感じているのだろう、声には僅かに疑念の色が滲んでいる。それを払拭するように、別の人が聞けば鼻で笑うようなバレバレっぷりながら裏声を続けた。
「エ……エルさんは、GTに行ってますよ」
「そうなんですか?親切にありがとうございます、探しに行ってみますねっ♪」
 本当に純粋なお礼の言葉とパタパタと遠のいていく足音に、胃ではなく、胸が痛む。
 追い返したのはあたしなのに、会わなくて済んだ安堵感よりも自責の念の方が強かった。
 ゴーストタウンは何箇所もある。ティアは、たった一人でどこへ向かったのだろう。そのどこでも見つけられなかったら、あたし以上に怖がりな彼女は、決して足を踏み入れなかった南十字病院に向かうのだろうか。あまりの恐怖に泣いてしまわないだろうか。

 ──いてもたってもいられず、あたしは部屋を飛び出し駆け出していた。

 向かった先は、南十字病院。
 そして、その廃病院が見える曲がり角で…ティアはぐるぐると円を描くように歩いていた。
「ティア」
「あ、エル姉!本当にいた!!えへへ、エル姉元気なかったからお粥作ったんだけど、お留守だったから。渡そうと思って探してたのー!」
 大事に抱えた可愛らしい紙袋。その中には、おかゆがはいっているのだと、照れくさそうに差し出しながら言った。
「最近元気が足りないような気がして、頑張って作ったんです!えへへ、ちゃんと渡せて良かった♪」
 あたし自身も頼りにして生きているけれど、女の勘とはよくいったもので、女の子の勘は意外に侮れない。
 GTにいるって親切なお姉さんに教えてもらったんですよ、と胸を張るティアが愛らしくて、気が付けばティアのことをぎゅっと抱きしめてた。
「ありがと、ティア。怖かったでしょ?」
「怖かったけど…でも、エル姉探さなきゃって思ってたから」
 ぐっと勇ましく拳を握って見せるティアが、とても、とても愛おしかった。
 頬を寄せて、髪を撫でて。そして、あたしは、いつもの笑みを浮かべたのだけれど…ティアはそんなあたしを見て目を見開いた。
「にゃー!エル姉、目が!!」
 ……今の悲劇的で喜劇的な目を忘れてた。
 けれど、こんな目になる原因は、彼女には1つしか思い当たらなかったようで。
「……一緒に頑張りましょうねっ」
 その腕を広げて、ぎゅっとあたしに抱きつい──違う、あたしを抱きしめた。
 いつも一生懸命で、純粋で、清冽で、真っ白で、優しいティア。
 一緒にいるだけで、まるで自分まで綺麗になったような気になる。

 嗚呼、願わくは、いつまでもそのままで。
 あたしのようにならないで、いつまでも輝くキミでいて。
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