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廻る世界

2008.07.25 *Fri
 
 校門前で偶然鉢合わせたのは、真夏日でも涼しげな顔をしている泉美だった。おはよう、と義理だけで挨拶を交わした直後、まるで心配しているかのような表情で、長身を屈めた彼はあたしの顔を覗き込んできた。
「エルサン。顔色悪いよ?」
「ただの寝不足」
「…そう」
 泉美の手が額に触れる。不意に触れた冷たい手が心地良かった。そして額から離れた手が頬に、掌にと順に触れる。
「汗はかいてないけど、身体、かなり火照ってるよ。熱中症じゃないの?倒れる前に帰った方がいいよ?」
 ──倒れたら周りが面倒だから。具体的には、今偶然隣にいる俺が。
 人の良い笑みの裏に隠された言外の真意は、徐々に付き合いの長くなってきたあたしに、意図的に明確に伝えられている。
「ちょっと、結社に顔出してから、考える」
「……そう。ま、俺と別れた後ならぶっ倒れようと野垂れ死のうと構わねぇけどな」
 泉美にしてみれば、せっかくこの俺が気を使ってやったのに、という所なのだろう。仮初めの口調を脱ぎ捨てて、ひらひらと手を振ってつまらなそうに視線を逸らした。
「うっさいなー…解ってるよ。ああ、その化けの皮を剥いでやりたい」
「案外知れてると思うぜ?」
 全く動じもしない態度に、あたしの眉間には思わずシワが寄せられた。
「無い頭で悩むから堂堂巡りするんじゃねぇの?当たって砕けてくりゃいいだろ」
「何で皆、砕けるの前提で話すかなー!」
「おまえが砕けるつもりでいるからだろ」
 しれっと放たれた言葉は、あたしにとって痛烈な一撃だった。駄目だろうと思って行動している、それは確か。
「星司サンにも言われたんだろ、砕けてこいよ」
「……砕けることもできなかったんだもん」
「……そりゃ災難だな、ゴシュウショウサマ」
 呆れるほど、全く興味のない口調。まあ、そうだろう。泉美があたしのことに興味を持つ道理がない。
 あたしどころか、頭上に輝く灼熱の太陽にも、運命予報士の王子が問い掛けていたエイレンの処遇にも、泉美はみじんも興味なんて持っていないに違いない。興味を抱くのは一握りの人に関して、だけ。それはあたしが琥先輩は過度に気になるのに泉美には興味がない、そんなことに似ている。
 その琥先輩とは、相も変わらずぎこちないままで。近くにいたいのに、いれば先輩を傷付けてしまいそうな状況は一向に改善されない。それどころか、あたしまで胃痛や寝不足を起こすようになってしまっていて。ヤマアラシのジレンマ、どころの話ではなくなってしまった。
 全て原因は自分なのだ。因果応報、世界は廻っている。廻る、廻る、この空のように。
「エル」
 支えられて、目眩を起こしていたことに気付いた。
「自分の手料理でも食ってンじゃねえの?夏場くらいはマトモなもの食べろよ」
「……失礼だな。食べてるものはマトモだよ」
 言い返したけれど、次第に立っていることが辛くなってきて。崩れ落ちそうになったあたしに肩を貸してくれた泉美の、恐らくは小さいはずの舌打ちが、やけに大きく聞こえた。
「面倒かけんなって言ってンだろ?この貸しは大きいから、覚悟しておくといいよ」
「かわいくない、なぁ……!」
 まるで泉美に引きずられたかのように、素直に出てこない感謝の言葉。そんなやり取りを続けていたけれど、保健室が見えてきたとき、再び視界が大きく揺れた。
 遠退く意識の向こうでなんとか呟いたありがとうの言葉は、猫かぶりの彼の耳には届いただろうか……。
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